「息子の部屋」

突然事故で息子を失ってしまった家族を描いた悲しみについて考えさせられる一本です。とても好きなタイプの映画です。台詞はかなり抑え目で「間」やそれにともなう映像で気持ちを表現しているように思いました。人の気持ちというのはそう上手く辻褄が合うようには動いてくれないのだという事を映像でとても上手く表現していました。


以前にも書いたように人というのは後戻りが出来ないと知っていながらも「もしあの時自分がああしていれば・・・」という事を考えずにはいられないものなのですね。主人公は精神分析医なのですが、彼が息子の事故死の遠因を作ってしまった患者と相対するシーンは見ていてとても切なく辛いものでした。彼が休診日の日曜に調子が悪いと電話を掛けてきて往診を強く求めたことで、家族の予定が狂いそれによって友人と海に遊びにいった先で息子が事故死したのです。彼は分析医として相対しようと強く努力しますが患者の話を聞きつつもその往診さえ断っておけばと想像してしまいます。彼が分析医を辞めるという決心をしたのはおそらく自分の心をコントロール出来なくなった状態で彼に相対してしまったからなのではないかと思われます。僕は精神分析に関しては素人なのですが、彼がその患者に言った言葉というのは分析医としては言ってはならない事だったのではないでしょうか。


喪失感というものがこの映画には実にリアルに描かれている気がします。日常の些細な場面において説明のしようのない虚しさや苛立ちを感じてしまうような事がその失われ部分を必死に埋めようとしている作業なのではないでしょうか。何となく分かります。この映画の最後がどうだったのかというのは微妙なところなのですが、僕は残された家族が悲しみを自分の中に引き受けたのだと見ましたが。

お奨め出来る一本です。